小舎人童の源氏物語日記

源氏物語を広めています。

桐壺・其の七 桐壺まとめ

桐壺まとめ

 

、、、ここまでで光源氏12歳。葵上14歳。

葵上の兄で光源氏の親友となる頭中将は16歳という設定になっています。

(物語用の年表を年立・としだて、といいます。)

だいぶ若い。というかまだ子供。と、言ったほうが正しい。

しかし、人生が50年だった時代のお話ですから、結婚も早く、

女性は初潮があれば結婚できました。

男性も10代前半で一人前扱いで成人式(元服の儀)を行い、烏帽子を被ります。

 

この長めのイントロダクションは、ドラマや映画にすると、

通常では状況説明的にさらっと流されてしまいますが、

この後の物語を読んで行く上で、とても大切な巻なのです。

 

まず、光源氏は、血縁者である母と祖母を亡くし、実の父は帝。

心を許して話せるような相手はほぼいません。

(乳母や乳母子くらいですが、身分が違います。)

とても孤独なうえ、慕っていた義母に会えなくなり、

次第にそれが恋慕の情へと変化し、執着にまでなっていきます。

 

父・桐壺帝は、政治家としては強かったけれど、

たった一人の女性に執着してしまい、女性達の運命を翻弄してまいます。

この性格は光源氏も受け継いでいるのを忘れてはなりません。

 

ひとりの女性に執着、あるいは依存する。というのは、

母親に縁が薄い人に多く見られるタイプでもあります。

帝や皇子などはただでさえ一般人とは違っていて、

実の親ではなくほとんどの時間を乳母と過ごすもの。

理想の女性のタイプが恋しい母親になることは予想できますね。

 

また、この巻で語られている重要なファクターとして、

光源氏は全てを持って生まれた来たが、にも関わらず、

本人が最も欲しいものが永久に手に入らないという

絶望からスタートしている事を忘れてはなりません。

 

一つ目は前述の初恋の相手である藤壺女御。

この人は血は繋がっていない義母ですが、

父帝の妻ですから、絶対に結婚できません。

 

二つ目は天皇になれる後継者としての権利を、

源氏という臣下に下る事で完全に失っている事。

光源氏は眉目秀麗、知能も高く、

何をしても並外れた才能を発揮する貴公子ですが、

でに兄の存在があり、兄の母親は右大臣の娘。

政治的にもこの人を差し置いて皇太子になる事は難しく、

帝もそれをしないでしょうが、

皇子のままでいれば、何かの拍子に可能性が発生するかもしれない。

そうなったら、もしかしたら敵対勢力に命を狙われかねないわけですね。

 

桐壺帝にしてみたら、最愛の女性に死なれ、

そのうえその忘れ形見の最愛の息子を失うことは絶対に避けたい。

なので早めに手を打って、光源氏皇位継承権を自ら奪ったわけです。

 

ですが本人にしてみればどうでしょうか。

 

12歳の時はまだしも、

男性として成長するにしたがって、己の優位性を自覚すればするほど、

なぜ自分には権利がないのか、母親の身分が低いというだけなのか

先に生まれた兄がいるからなのか、しかし、、、

という思いにかられることがないわけがないと考えるのが

普通ではないでしょうか。

 

この辺は男性の心理ですが、

天下を取りたいだの、権力を持ちたいという野望は

本来の狩猟本能からして多くの男性が一度は夢見るもの。

ゲームやスポーツに勝ちたいと考える人の割合も

男性のほうが多いでしょうから、

光源氏の根底にもそれが流れていると考えるのが自然でしょう。

 

次の巻からしばらくの間、若い光源氏はかなりご乱行を繰り広げます。

 

五十四帖の前半が支離滅裂だの、ただの恋愛物語だのに見えるだの、

色々ご意見はあるでしょうが、

ティーンエイジャーの光源氏

もうすでに自分の望みのトップ2が絶対にかなわないと

はっきりと人生を頭打ちされて、

どう生きたらいいかを絶望のなか、模索するからああなるのです。

 

まあ、はっきり言ってめちゃくちゃな部分もありますが、

闇は限りなく深く苦しい。

それは行きつくところまで行かないと過ちに気づかないほどの闇。

 

しかし、賢い光源氏は、

いつも途中で自分の置かれている公的立場に気づいてしまい、

完全な闇落ちを免れていきます。

その様子は読んでいると綱渡りのようです。

 

、、、次回はちょっと物語本編から離れたお話をしようと思います。